3.8 補足 :電子回路によるデジタル処理の実現とその発展

 これまでの議論で省略した電子工学的なコンピュータの側面について補足する。

 現在のコンピュータは、電気の流れによって特定の動作を行われる電子回路によって構成されている。これまで述べてきたように、デジタル化されたデータの処理は論理演算や繰り返し処理を実現する論理回路によって行われる。そして、処理の手順がプログラムによって与えられ、プログラム自体が、論理回路によって解釈され、解釈された結果に基づき、基本的な計算の組み合わせによってさまざまな複雑な処理が可能となる。しかし、こうした処理を電子回路上への実装する、という電気電子工学の進歩がなければ、社会への普及は進まなかったであろう。簡単ではあるが、この進歩の過程について以下で解説する。

 

3.8.1 電子回路の登場:論理演算回路の実現

 情報科学技術の発展は、デジタル化されたデータを計算するための論理回路の高速化、高密化と、より良い計算手順の発見、発明によって進められている。特に、論理回路の実現方法として電子回路を用いることで飛躍的な発展が可能となった。

 論理回路の基本は、二つのデジタルデータを入力し、その組み合わせによって結果を出力する演算素子の組み合わせによって実現できる。電気信号で考えれば、1ビットのデータであれば、電気信号のオンとオフ、すなわち電圧の違いで表すことができるので、電圧の違いによる信号を二つ入力し、その組み合わせに応じた結果を出力する演算ゲートが組み合わされ、論理演算が行われる。つまり電子回路では、論理演算は電気信号のオンオフを制御するスイッチの組み合わせによって実現できる。

 非常に大ざっぱにいえば、このスイッチの役割を果たす素子の高速化と高密化が、コンピュータを産み出し、その性能を向上させる鍵となってきたのである。開発されたばかりのコンピュータは、素子としてリレーが利用されたが、電磁石によって機械的にスイッチを動かしていたため、そのスイッチング速度や小型化には限界があった。また機械部品は使用頻度によってスイッチの消耗も起こることから、そのメンテナンスにも手間がかかった。

 そこで機械的な部品を無くすことによって、コンピュータの性能を向上させることになった。電子的な回路のみでのスイッチの役割を果たしたのは真空管である。金属を加熱すると、金属内部で動き回っている自由電子が表面に飛び出してくることを利用して、電子の流れをコントロールするのが真空管である。その真空管にスイッチの役割をさせるようにしたのである。真空管では、電子的な機構だけで構成されることから、リレーのような機械的なスイッチと比較して飛躍的な高速化が可能となった。

 しかしながら、真空管は内部構造が複雑で、真空管もガラスでできており割れやすく、動作を安定させることも困難で、結果的に信頼性も低かった。実際に、1946年にペンシルバニア大学で開発された最初のコンピュータの代表例であるENIACでは、約180,000本の真空管と1,500個のリレーで構成されており、消費電力150kW、重量30tという大規模なもので、真空管によるコンピュータは極めて特殊な機器に過ぎなかった。

 

3.8.2 電子回路の発展:真空管からの脱却

 真空管は構成部品も多く、複雑な構造をしている。真空管を利用したままでは、回路の小型化や高密化が困難であったが、半導体を利用した電子回路の登場が状況を一変させることになる。

 半導体は、電気を通す導体としての性質と電気を通さない絶縁体の両方の性質を持った物質で、異なる性質の半導体を組み合わせることで、電子の流れをコントロールすることが可能となる。半導体を利用したトランジスタは、スイッチとしての役割を果たすことから、トランジスタを組み合わせることで、論理回路や記憶回路を作ることができる。さらに、半導体の上に、異なる性質の半導体を階層的に組み合わせることで、トランジスタと同等の回路を容易に作ることが可能となった。

 その結果、複数のトランジスタを利用して作る様々な回路を一つの半導体の上にまとめることが可能となった。このように複数の回路を1つのパッケージに集めたものを、集積回路(IC: Integrated Circuit) という。

 初期の集積回路は、ごくわずかのトランジスタを集積しただけであったが、技術の進歩によって、より微細な配線加工が半導体の上で可能になり、集積度の向上が図られLSI Large Scale Integration)、VLSI Very Large Scale Integration)、ULSIUltra Large Scale Integration)と、半導体製造技術の進歩により、回路規模、性能が向上してきた。ムーアの法則と呼ばれるように、これまで1824ヶ月で2倍の速度で集積度の向上が図られてきたのである。

 集積回路は、簡単に言えば、半導体の基板上に微細な回路を写真の原理で定着させることによって製作される。その回路を転写する際の光学分解能をプロセスルールと呼ぶが、プロセスルールの分解能が高くなれば、より大規模な回路を作り込むことが可能となり、トランジスタの集積度が上がる。さらに、スイッチの役割をする回路間の配線も短くなることから、電流のオンとオフの閾値の電圧が下がり、より高速にスイッチングが出来ることを意味している。

 つまり、集積度の向上によって、同じ長さの配線の中に、より多くの回路を組み込むことで、記憶回路で考えれば集積度の向上は大容量化を進展させ、またスイッチングが高速になったことで、処理速度も向上してきた。このような半導体を利用した電子回路を利用することで、デジタルデータを大量かつ高速に処理することが可能となったのである。

 

3.8.3 メモリ(記憶装置)の進化

 以上は「計算」を行なうスイッチの部分の話だったが、最後に「記憶」を行なうためのメモリ(記憶領域)の電子化についても述べておこう。1949年に開発されたEDSACというコンピュータでは、メモリには水銀遅延線という水銀中の音波として情報を格納する装置が用いられた。その後、メモリには、磁気コアメモリが用いられ、現在では半導体素子であるSRAMDRAMが用いられている。SRAMはトランジスタを組み合わせ、電源を切っても状態を保持することができる回路で作られている。DRAMはコンデンサに電荷を保持することにより情報を格納する。RAMDRAMは、両方とも集積回路として実現されているのである。